あいさつ
がんは40年以上にわたりわが国における死因の第1位であり、依然として国民の生命と健康を脅かす疾患です。近年のがん診断法や治療法の進歩により、生存率は向上しているものの未だ満足できるものではありません。がん治療には、外科治療、放射線治療、薬物療法、がん免疫治療などがあり、これらを複合した様々な新しい集学的治療が開発されるとともに、診断時からの緩和医療などの充実が求められています。さらに、遺伝子解析技術の進歩により、分子バイオマーカーに基づいた精密医療の時代に突入しています。このようにがん医療が複雑化する一方、わが国では超高齢化に伴い高齢のがん患者だけではなく、様々な合併症を有するがん患者にどのように治療を提供すべきかという課題に直面しています。また、国民生活の視点からみると少子高齢化、人口減少、大都市集中の人口動態など社会構造の変化も大きく、医療従事者の数自体も減少することが予想され、高度化・多様化する医療のなかで、どのように適切な医療を提供するかを真剣に考える必要があります。さらに、わが国における社会基盤のデジタル化の遅れは深刻であり、ICTや遠隔医療などを活用した医療提供体制も早急に整備する必要があります。そのためにも、がん領域のみならず、非がん領域の医療技術や最先端の異分野との学際的連携が必須であり、本事業では、本拠点連携校が蓄積してきた教育、研究、診療に関わる人材、インフラ、そして海外の先進施設との連携を基礎に、新たに顕在化してきた課題や社会のニーズに対応すべく、高度化・多様化するがん医療を担う専門的医療人育成に取り組む所存です。
京都大学では、当拠点のテーマである「高度化・多様化するがん医療を担う次世代の専門的医療人育成」に従い、多職種かつ多様な人材育成を行う教育コースを設置いたしております。詳細な内容につきましては本冊子に記載のとおりですが、養成を目指す職種といたしましては、医師をはじめ、看護師、薬剤師、医学物理士、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士、ビッグデータや人工知能を利活用できるその他の医療職と多岐にわたっております。また、養成を目指す医師も、ゲノム医療・細胞治療等の精密医療に対応できる医師、がん免疫療法に精通する医師、高精度緩和治療やRI内容療法に精通する放射線治療医、病理診断医、遺伝性腫瘍に精通する医師、腫瘍腎臓病学や腫瘍循環器病学に精通す医師など、多様な人材育成を行う体制を整えました。さらに、各参加大学間の連携を密に図り、より良い人材育成を進めていきたいと考えております。
三重大学では、第4期がんプロの3つのテーマに沿って、正規課程として腫瘍内科専門医、小児がん専門医、婦人科腫瘍専門医、放射線治療専門医、がん専門薬剤師、がん看護専門看護師の養成コースを設けました。これらの大学院コースでは、研究による学位の取得とともに、がん専門職の資格取得を目指した指導教育を行い、優れたリサーチマインドを持ち、個別化医療を適切に実施できる高度がん医療人の育成を進めていきます。また、インテンシブコースでは、ゲノム情報を活用したがん診療に従事する人材養成コースの他、緩和医療専門医・認定養成コースを開設しました。緩和医療専門医コース(2年)、および認定医コース(6ヶ月)では、所定の研修を経て専門医および認定医の取得を目指します。これらの教育課程による専門資格の取得とともに、様々な講演会・研修会の開催・共催を通じて、がん医療の現場における課題に対応できる専門人材を育成したいと考えています。
滋賀医科大学大学院医学系研究科・医学専攻では、「次世代のがんプロフェッショナル養成プラン」において、過去15年間のがんプロフェッショナル養成事業の実績と最新のがん医療の動向を踏まえ、複合的がん個別化医療開発、地域のがん放射線医療の推進、がんに関わる遺伝医療、薬剤学的な先制がん医療、がん局所環境に基づいた新規治療法の開発等を担う医療人を養成することを目的とした5つのがん専門医療人コースと1つのインテンシブコースを新たに設けました。 いずれのコースにおいても最先端の基礎・臨床腫瘍学とその学際領域を教育するとともに、がん薬物療法、外科療法、放射線療法、緩和ケア、支持療法に関わるがんの基礎研究からトランスレーショナルリサーチにつながる研究手法の指導と医療開発のOn the Job Training(OJT)を行い、標準治療から先進的医療、創薬研究までを推進して、社会の要請に応える包括的・全人的がん医療を指導的立場で実践できる専門医療人材を養成します。また、行政、地域医療機関や医療団体、国内外の卓越した大学院・研究機関・がん専門病院群との学際的ネットワークや本学の特色ある教育・研究基盤を活用し、地域と世界で活躍する人材を輩出して医療、福祉の発展に貢献することを目指します。
大阪医科薬科大学では、4期目にあたる「次世代のがんプロフェッショナル養成プラン」において、医学部・薬学部・看護学部の3学部が協働・連携することで、急速ながん医療の高度化に対応し、がん医療の新たなニーズを捉えた「誰一人取り残さないがん対策の実践と、ひとりひとりのWell-beingを実現する」ことを可能とするがん専門医療人材、高度医療人材を育成することを目指します。 前3期の基盤の上に、本プラン実現のため、腫瘍内科学、放射線腫瘍学、病理学、麻酔科学、医療統計学、薬学、がん看護学、がん関連学際領域として糖尿病学、循環器学が集い、インテンシブコースを含めて新たに9つの大学院コースを開設しました。“データサイエンスに基づく誰一人取り残さないがん対策を実現するための人材育成コース”では、患者支援者, 企業人, メディア関係など医療職に限らず広く学びの場を提供することで効果的なプログラム作りに挑戦します。 3学部のそろう本学の強みを活かし、医薬看融合教育プログラムにより、個別化治療の推進、苦痛への対応など長期生存時代を切り拓き、健康長寿、健康格差をも意識した地域患者を支える高度がん医療専門人の養成を行います。
京都薬科大学では、薬学の未来を拓く“Science(科学)、Art(技術)、Humanity(人間性)のバランスのとれた薬剤師”の育成を目指した6年制薬学教育を推進するとともに、大学院博士課程では、医療現場、企業、行政といったあらゆる医療現場においてリーダーとなる博士号を有した薬剤師を育成することを目的に教育を進めています。 本学は、「がん患者のQOL向上および終末期医療を担う人材養成コース」と「近未来の医薬品・治療法の開発を担う人材養成コース」を開設しました。両コースとも、病院連携プログラムや地域在宅医療プログラムを受講してチーム医療を実践的に学ぶ機会を設けており、がん薬物療法の高度な専門知識と基礎的または臨床的薬学研究能力を有する、高度で先進的な医療を担う薬剤師や近未来の医療に対して指導的立場となる薬剤師の養成を目指します。さらに、創薬やビッグデータ分析など、本学の様々な研究室におけるスキルを横断的に学ぶ機会を提供し、これからのがん医療を担う臨床薬剤師や創薬研究者の養成を目指します。